『ヒミツ』10巻 34 必要なこと7
34 必要なこと7
いま企業にとって、もっとも重要なことって何だと思う?
財務体質と収益性の向上よ。
そんなのあたりまえだし、いまにかぎらず
いつだってそうでしょ、って声が聞こえてきそうね。
たしかに、そう。
・・・でも、そういう意見って、円高転換の意味を
見落としていると思うの。
何度も書いてるけど、インフレ/デフレと、
好況/不況って別の話しだったでしょ。
インフレだけど不況もありえるし、
デフレだけど経済は絶好調、なんて状況もありえる。
そしてね、これらのファクターと円高/円安もまた、別の話しなの。
一般論としては、通貨安の方が国家経済全体としては
プラスに働きやすい。
通貨安政策が国際経済的には「近隣窮乏化策」と呼ばれ、
ちょっと世界経済に詳しい人なら知ってるはず。
コロナ前までの日本は、「円安+デフレ」のおかげで、
国民たちにとっては実はそんなに悪い状況でもなかった。
デフレ下では、一般に消費者が有利。
企業たちが勝手に安値競争をしてくれるので、
ぼーっと待ってるだけで、安くていいものが買えるようになる。
賃金の実質価値も、預金の実質価値も毎年向上し、
買える量は自動的に増えてく。
失われた20年とか30年とか揶揄される割に、
国民たちの暮らしはそんなに悪いものではなかったのよ。
円高転換するとね、基本的には逆の現象が起こる。
目先はトランプ旋風で円安だけれど、ご祝儀相場はじき終わるわ。
円高は不況を誘発しやすい。
しかも次の不況は、金融マーケットや大型不動産の活況、
とセットでやってくる。
持たざる者たちへの不況と、持てる者たちへの好況が同時に来るの。
そして、中小企業たちのさらなる倒産と、
グローバル大手のしぶとい高収益化もまた、並行して進んでいくわ。
いい?
多少おこぼれで給料が上がったとしても、
株や大型不動産がバブル化しても、
自分が勤めている会社が倒産しちゃったら、意味ないでしょ?
円高で輸入物価が下がり、生活は少し楽になるかもしれないけれど、
そもそも働き口がなくなっちゃたら、元も子もない。
いま財務状況が悪い会社、いま収益力が低い中小は、
円高転換が本格化していく次のフェーズでは、
確実に、モーレツに淘汰されていっちゃうのよ。
円高になるとインバウンド需要も急減するから、
浮かれている旅行業界も要注意。
円高なんてぜんぜん気にならない富裕層以外の需要は、
急速にしぼんでいくわ。
当社が採ってる深遠な戦略の意味、あなたなら理解できるはずよ。
いまこのタイミングで、財務体質と収益性を向上させることは、
1丁目1番地の最重要課題だった。