『ヒミツ』第9巻 20 戦略 04
20 戦略 04
彼の戦略は、一言で表すなら「資産を厚くする」。
とてもシンプルでしょ。
経済学者のピケティは明らかにした。
r > g って。
rは資本収益率で、gは経済成長率。
資本家が資本を運用して得られる収益、
たとえば、株式投資や不動産投資、債券投資などの成果と、
国民たちが働いて経済を成長させることで得られる所得の上昇とでは、
前者の方が大きかったってこと。
具体的に言うと、rは2~5%で、gは1~2%。
2%のマイルドな成長の実態については、先日書いたでしょ。
庶民の生活実態を基準にするなら、
アレのほんとうの姿は2桁代のマイナスだって。
ピケティの式はね、あたらしい時代においては、
「gはめちゃくちゃ大なりg、しかもgは実質マイナス」なのよ。
rとgの格差は、これからますます広がっていく。
r が飛躍的に拡大する一方で、g はマイナス幅を拡大させていくの。
企業に置き換えるなら、従業員たちが一生懸命働いて、がんばって数字を
作っていくP/Lタイプの会社は続々と倒産に追い込まれていく。
他方、厚い資産を持ち、資産が資産を生んでいく循環に入れたB/S型の企業たちは
安定的に生き残っていく。
その選別のプロセスがはじまっているんだ、と筆者は解釈しているのよ。
だから、彼の戦略は明確。
彼には、CIAから特別な情報がもたらされることもなければ、
FRBや日銀から今後の金利政策を漏らしてもらえる、なんてことはない。
だから、株式投資や仮想通貨で大儲け、なんて不可能。
一般国民や一般企業と、なんら変わらないわ。
だから彼は、不動産投資の事業化を選択したの。
でも、都心の収益物件や商業不動産などは、
資本力に勝る強力なライバルたちがたくさんいて、とうてい無理。
これから新規参入する弱小企業など、話にならない。
だから彼は、郊外の中古戸建て、を選択した。
基本、この分野は儲からないので、ライバルが少ない。
せいぜい地元の小規模不動産業者たちや、小銭がある個人投資家、
そしてマイホームがほしい実需層。
この人たちが相手なら勝てる。
彼はそう読んだのよ。