『ヒミツ』第8巻 37 あたらしい会社1
37 あたらしい会社1
あたらしい社会に適応した、あたらしい会社のあり方について、
筆者はよく考える。
多くの経営者は、新規事業としてそれを体現するわ。
商品や事業にも寿命があるので、それが尽きないうちに、
つまり本業が回っている間に、次の食い扶持を作っておく。
時代の変化を先読みして、新事業をいくつも立ち上げては失敗するなか、
例外的に花開いたものが、次の全社的な飯のタネとなるように。
ここにはね、実は人間に特有のいくつものドラマがあるの。
それを認識していないリーダーがむやみにやると、
部門全体を率いて自滅へまっしぐら、になっちゃう。
新規事業は、本質的に9割以上失敗するという宿命を背負っているため、
鬼門になりやすいのよ。
そのあたり、ちょっと深掘って考えてみたい。
あなたが映画館に行ったとしましょう。
見たいものは決まっているのだけれど、
ふと目をやると、こんな映画があった。
<パターン1>
イケメンなA君と、美しいB子さんがいた。
二人とも裕福な家庭に育ち、頭もいい。
なに不自由ない暮らしをしながら2人は出会い、
結婚し、子にも恵まれ、幸せな人生を送ることができました。
めでたし、めでたし。
もしこういう映画があったら、見たいと思う?
ヒットするかしら?
当然、大コケよね。(笑)
でも、よく考えてみたら、不思議じゃない?
人って、幸せになりたいわけでしょ。
映画って、主人公に感情移入する疑似体験なわけでしょう?
その時間、自分を主人公に重ねて没入し、
あたかもその人生を自分が歩んでいるかの錯覚経験を買ってるわけなのに。
なぜ人は、幸せになれるチャンスを得ようとしないんだろう?
じゃあ、次の映画は?
<パターン2>
A君は小さいころ、母を亡くした。
父はそれ以降、少しすさんだ生活を送っていた。
やさしく接してはくれたけれど、心のなかにぽっかりと穴が開いており、
仕事に身が入っていないのはあきらかだった。
A君は、父もまた自分と同じものをもとめながら、
しかし慎重にそれについては触れないよう、
二人が心の視線を合わせることがないよう、
細心の注意を払いながら生きていることに気がついていた。
だからAは、できるだけ快活にふるまうようにしていた。
心の視線が合ってしまうと、あの日々を思い出してしまうから。
二人の間には、そんな暗黙の了解があった。
そうしたなか、AはB子に出会った。
背すじが凛としており、笑うと目が消えるのだった。
たのしそうに友達と話している間も、
Aは、B子の背すじが凛としたままなのに気がついた。
友達のC美は右に左に、前に後に体の中心軸が動き、
ときには猫背気味に手をたたいたり、笑ったりするのだけれど、
B子は違っていた。
大きく笑いながらも、会話をはずませながらも、
白い首筋から背骨にかけてのラインはほぼ動かない。
Aは直観的に、同じ匂いをB子に感じていた。
彼女もまた、友人に「心の視線」を向けていないのだ。
ヒットするには、まだ深みやプロットの工夫が必要だと思うけど、
なんとなく「何かありそう」「何か起こりそう」的な感じは
出てるんじゃないかしら。
少なくとも、パターン1よりはこっちの方が
おもしろそうよね。
いい?
人はね、無意識のうちに、「幸せになれない方」の選択をするの。
社員はね、無意識のうちに、「失敗する方」の事業を立ち上げるの。
リーダーはね、無意識のうちに、「自滅する方」のプロジェクトを
指揮しちゃうのよ。
新規事業の9割以上が失敗するという事実には、
成熟した先進国ではたいていのニーズはもう満たされており、
あらたな潜在ニーズを発掘することがむつかしい、
という条件以上の条件が実は働いている。
ここに気がつくかどうか、このメカニズムをどう使いこなすか、が
実は新規事業のキモになってる。