『ヒミツ』第8巻 30 あたらしい働き方5
30 あたらしい働き方5
人間には顕著な特徴がある。
もともとよく間違える生き物だけれど、
こと自分の幸せに関しては特に重点的に間違う、
という事実。
いま、目の前にAとBという選択肢があったとしましょう。
もっと多くても、まだらになったのがあってもいいけれど、
わかりやすくするために単純化するわね。
ほとんどの人は、自分にとってより有利な方、
より幸せになる方、よりメリットが多い方を選択するでしょ。
より被害が拡大する方、よりダメになっちゃう方、
より不幸になる方を好んで選択する人なんてまずいない。
とするなら、人はみな、日々の選択すべてにおいて
より幸福になる方の選択ばかりをくりかえしてきたはず。
最初は5分5分だった確率も累乗効果によって、
選択のたびに指数関数的に幸福性が高まっていくので、
10回も選択をくりかえしたら、確率論的にはほぼ100%間違いなく確実に、
幸福になる以外の偏差は生じえない、統計的にそれ以外は不可能、
というくらいに幸福になるはずじゃない?
ところが、10点満点で幸福度を聞くと、
生き方の選択が具体的にはじまっていく就職期以降、
一貫して現役世代の幸福度が最も低い。
特に男性は職場で相当なプレッシャーにさらされているため、
その傾向が強く出る。
このグラフから読み取れるのは、仕事に関する選択において、
子育てにおける選択について、夫婦生活における選択について、
日常の暮らし方に関する選択について、
人々は重点的に選択を間違えながら生きている、ってことじゃないかしら?
逆に、ラットのレースから離れた瞬間、つまり職に就く前やリタイアした後は、
誤選択を強いる圧力から自由になって、ほんとうの意味で幸福につながる
選択ができるようになる。
このグラフは、そういうふうに読めない?
お父さんは、家族が幸せになれるよう、
より多くの消費券を手に入れようとして一生懸命働くけれど、
その結果、家族と幸せに過ごすための時間も気力も余裕も失っていく。
子たちが将来、より多くの消費券を入手できるよう、
親は塾や予備校やお受験や御三家とかに夢中になるので、
子たちは人格形成に大事な思春期をほぼ棒に振る。
その結果、美しい言葉に惑わされずに自分の肌で感じとれる力は育たず、
崇高な理念に振り回されることなく本質を直感する力が涵養されることもなく、
次の世代の従順な「被造者」たちが大量生産されていくの。
欲望を叶えようとする親の欲望は、こうして子々孫々へと継承されていく。
学校に行きたがらない子たちはね、こうした社会のあり方に
体を張ってNOを突き付けてるのよ。
引きこもってる大人たちも。
世界全体の構造化に関する知識がなく、若いころは経験不足もあり、
自分の言葉で的確な表現ができないだけであって、
実は彼らをダメ人間扱いしている「大人ラット」たちの方が
はるかにおかしな生き方を選択している。
筆者にはね、そう思えてならないの。
あなたはどう?