『ヒミツ』第4巻 40 特徴1
40 特徴1
あなたが、スポーツカーに乗ってるとしましょう。
真っ赤な、カッコいいやつ。
軽いので、どんなコーナーもひらひら曲がれる。
出口にさしかかると、絶妙なアクセルワークで姿勢を変え終え、
強大なトルクで後ろから蹴られるようにぐいぐいと加速していく。
まさに人馬一体って感じね。
車好きの人には、たまらない瞬間。
さて、ここで質問よ。
運転手と、車と、どちらの方がより本質的な存在だろう?
* * *
ニンゲンには、顕著な特徴がある。
みながみな、「乗り物」の方を自分だと思っているの。
でも、あくまで乗り物は乗り物でしょ。
どれほど一体感が強くても、どんなにすてきでも、かけがえはある。
経年劣化も避けえない。
適度なタイミングで「交換し、更新していくもの」じゃないかしら?
にもかかわらず、ニンゲンは両者を同一視し、混同してる。
それがニンゲンの特徴なの。
結果、さまざまなドラマが生じてくるわ。
たとえば、廃車になったらすべて終わりという価値観からは、
刹那的なものが生まれやすい。
なにやったってどうせ最後は「無」になっちゃうんなら、
走れるうちに快楽を追求したほうがいいに決まってるじゃん。
他人のレーンにはみ出したとしても、知ったことじゃない。
ぼーっとして割り込まれる方が悪い、とかね。
でも逆に、混同しない人々は、別の考え方をすることもできる。
たとえば、運転手こそ車を乗り変えても継続する本質なのであれば、
今回はたまたま安価な軽自動車に乗っているドライバーもまた対等な存在であり、
自分がベンツに乗っているから優越してるわけじゃない、って自然に考えられる。
どっちの車がより大きいか、より高いか、よりピカピカしてるかって価値観も
意味を失うでしょう。
特に、「永遠に」「形を変えてはくりかえし」「何度でも」が前提になる場合は。
自分と肉体を同一視しすぎると、珍妙な喜劇/悲劇が起こりやすい。